さよならiPhoneとジョブズ

iPhone6はもう「フェーズ5」に入った?Appleで繰り返されるイノベーションと衰退の歴史【連載:村上福之】 - エンジニアtype
気づいていたし、なんども冗談として言ってはいたが、誰もそう言わないので実感が無かった。しかし上記の記事を読んで、改めて「ああ、そうか終わったんだな」という気持ちになれたので言いたい事をぶちまけておく。
だってドラゴンボールないし。

そう、誰が何と言おうと、ジョブズは世界を変えた。
ジョブズがいなければウィンドウズはもっと酷い仕様で作られていただろうし(そもそも無いかもしれない)携帯も無駄機能満載の全く何の喜びもない惰性商品であふれかえり、音楽を聴くために多種多様な意味不明な形状のデバイスを持ち歩かなければならなかっただろう。
いや、ほとんどのものがその形では無かったはずだ。


スカリーは深刻な病に冒された。アイデアを出せば作業の9割は完成だと考える、そして考えを伝えさえすれば社員が具体化してくれると思い込む病だ。
しかし製品に発展させる中でアイデアは変容し、成長する。
素材にはそれぞれ不可能な事がある。工場もロボットもそうだ。だから製品をデザインする時には5000ものことを一度に考える事になる。大量のコンセプトを試行錯誤の中で組み替え、新たな方法で繋ぎ、望みのものを生み出す。新しく現れたものを元にしてすべてを捨て最初から作り直す。そのプロセスこそがマジックを生み出す。 
ロケットを打ち上げてすぐの頃は少し方向を変えるだけで後から大きな違いになる。正しい方向を見極めるには人類が生み出してきた優れたものに触れ、自分のしている事に取り入れることだ。「優れた芸術家は真似る、偉大な芸術家は盗む」だ。Macが素晴らしいものになったのは、別分野での豊かな経験が優れた開発者達によって取り入れられたからだ。コンピュータを超える視野の広さがなければ作る事はできなかっただろう。
私は自分が正しいかにはこだわらない。成功すればなんでもいい。私は何かを強く主張していても反対の証拠を見たとたん180度意見を変える。そんなのはかまわない。実際よく間違うが、最後の決断が正しければ良い。
 上記の映像の発言からうかがえる、鬼気迫る製品への集中力。
これだけ製品に対して思いを持ち、かつ優秀な人というのはそういない。製品と、それ以上に開発のプロセス、そこからの学びを愛していた。
そう、いかなる時もデコレーションでは到達できない場所へ行くため必死でもがき続けていたのだ。だから確実に言える事は、いくら有名デザイナーを雇ってももう二度とあの頃の熱狂は訪れない。そのデザイナーは同時に5000のことを考え、新しいもの生み出そうともがいてはくれない。

iPhoneがAndroidを真似してどんどんダメになっていっている今、90年代終わり頃の酷いPCしかない状況が思い出される。
ジョブズがAppleにいなかった時代のPCラインナップはシャレにならないくらい本当に酷かった。
今はとにかくMacBookでも持っておけば安心できる時代になったが、こんな夢みたいな時代はあの当時信じられなかった。
かつてのPCは酷いデザインのMac(ユーザーは印刷所の対応を考えているデザイナーと狂ったようなマカーだけ)と、よくわからないメーカー製のまったく使わない無駄ソフトで一杯のカスタマイズWindows、あとはショップブランドか自作、という時代だった(Windowsは大して変わってないか)。
カラフルなiMacが登場して、その閉塞感を打破した。 今では醜悪に感じるあのカラフルアクアデザインも、あの台所のゴミ箱が並んでいるようなPC時代を変えるために必要だったのだ。その後、目的を果たしたiMacはユーザーが飽きて去っていく寸前で一気に色を無くし、普遍的なデザインを目指すようになった。

ジョブズが生きていれば、iPhoneも同じ道を辿るはずだった。
革新性を目指さない、安定と、落ち着きと、美しさを突き詰めていく、それ以上なにも手を入れられない、なにも引く事のできない完璧さを追求するデバイスになるはずだった。MacBook Airのように。
意味不明な16:9に手を出してそれまで美しいレイアウトだったアプリの画面比率をメチャクチャにしたり、片手で使うように考え抜かれてデザインされたアプリを巨大化で全部ドブに捨てるような事はしなかったはずだ。革新性、革新性と、言葉だけで何とかなるならジョブズは5000ものことを同時に考える必要なんてなかった。
iPhoneもやがて、ジョブズ復活前のMacと同じように、不細工で使う人が限られたデバイスとなっていくのだろう。

さよならiPhoneとジョブズ。
今ある美しいデバイスが壊れるまで大事にしようと思う。
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